新型コロナウイルス感染症に適用する場合の「住宅ローン特則」は、返済が困難な人の再建支援となるのか。

FP

最近よく、新型コロナウイルス感染症の影響で住宅ローンを払えなくなった人の、自宅を売却するまでに至った経緯がニュースや報道で取り上げられているのを耳にします。そのなかで「住宅ローン特則(自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン)」についても認知が高まってきたように思います。
住宅ローン特則は、そのメリットだけを聞くとさながら令和の徳政令のように感じますが、本当にそうなのか検証してみました。

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住宅ローン特則の目的と概要。

正式名称は「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以降、ガイドライン)」。
このガイドラインは、東日本大震災の被災者向けに2011年7月に策定された「個人債務者の私的整理に対するガイドライン」で得られた経験を踏まえ、地震や暴風・豪雨によるさまざまな自然災害時の債務整理枠を定めたもので、災害救助法の適用を受けた自然災害の影響により住宅ローン等の既存債務の返済ができなくなった個人債務者の債務整理をおこなう準則として2016年4月1日より適用を開始。
運営は当時の全銀協から事業譲渡された一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関がおこなっており、2021年10月30日にガイドラインが改定。
新型コロナウイルスの影響を受けて返済が困難になった個人の再建支援のためのガイドラインを適用する場合の特則(コロナ特則)が追加され、2021年12月1日より運用が開始されています。

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債務整理の手法。

従来のガイドラインの手法である「公正価格分割方式」と「公正価格一括弁済」に「住宅ローン特則型」が追加されました。

住宅ローン特則型とは。
住宅ローン等の住宅資金貸付債権の返済を継続することで、自宅を売却することなく、住宅ローン以外の債務だけを減免・免除する制度です。
民事再生法の「住宅資金貸付債権に関する特則」と同様の債務整理が可能とされています。
※住宅資金貸付債権の要件
①資金使途が住宅の建設・購入・改良のいずれかであること(住宅の底地または借地権の取得資金を含む)
②分割払いの定めのある貸付であること
③当該貸付債権または当該貸付債権に係る保証会社の主債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること

住宅ローン特則型が適用された場合、債務整理の対象から住宅ローンが除かれ、それ以外の債務については通常の自然災害時と同様の「公正価格弁済方式」により債務整理されます。

対象となる債務者(コロナ特則の場合)。

新型コロナウイルス感染症の影響で、収入や売上が減少したことによって既存債務の返済が困難かつ、財産(一定の自由財産を除く)を処分しても債務の返済ができない個人債務者が対象となります。
それ以外の理由で返済が困難となった場合には、住宅ローン特則を利用することはできません。

ガイドラインによる債務整理の流れ。

http://www.dgl.or.jp/flow/

ガイドラインによる住宅ローン特則の特徴。

この特則は、カードローンやその他の債務を抱える個人・個人事業主が、住宅を手放すことなく住宅ローン以外の債務の免除・全額を申し出ることによって再建できるように支援をおこなう制度で、メリットとしては以下の3つが挙げられています。

①弁護士などの「登録支援専門家」による手続支援を無料で受けられること。
②財産の一部を手許に残せること。
③債務整理したことは個人信用情報として登録されないため、新たな借入れに影響が及ばないこと。

ここで気になることは、登録支援専門家に無料で手続支援を受けることはできますが、金融機関への債務整理の申し出や財産目録などの書類は自分自身で作成しなければならず、簡易裁判所への特定調停の申立費用も自己負担となります。
コロナ特則により住宅ローン以外の返済を減免または減額をすれば、信用情報に記載されている借入の数字が不自然になっているのではないでしょうか?債務整理としての登録がなされなくても、数字の不自然さだけで何がおこったのかを容易に推測できるのではないでしょうか。

金融機関によるリスケの特徴。

過去のリーマン・ショックにより施行された「中小企業金融円滑化法」は平成25年3月に終了していますが、各金融機関では住宅ローンの返済が困難となった人にとってのセーフティネットとして、返済相談・返済方法の変更について誠実かつ丁寧な取り組みが今でも続いています。

金融機関でできる返済相談や返済方法の変更(いわゆるリスケ)の特徴は、ガイドラインによる住宅ローン特則のように他の債務に干渉することはなく、あくまでも住宅ローンだけの相談となります。
方法としては「毎月返済の元金据置」「返済額減額」「返済期限の延長」があり、返済期限の延長以外は1年ないし2年間の一定期間の間となっています。また、新型コロナウイルス感染症によるもの以外でも相談できます。

大切なこと

新型コロナウイルス感染症の影響もありますが、従来から全国的に住宅ローンが払えない人の数は後を経ちません。ローンが払えなくて困っている人は、誰にも相談できずに思い悩んでいるいう印象を受けます。返済に困っている人は一人で悩まないで誰かに相談して欲しい。そうすれば知恵が2倍になって、何か最善策が見つかるかもしれません。大切なことは「早いタイミングで誰かに相談する」ことだと思います。

出典:一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関(詳細については以下のホームページにてご確認ください)
http://www.dgl.or.jp/guideline/